ターボチャージャー内のインペラ/ボリュート相互作用の高精度な解析

        ホワイトペーパー     02.05.2016

ターボチャージャーは、現在、ほとんどの自動車で搭載されています。新車のディーゼル車で、ターボチャージャーや直接噴射式エンジンを搭載していない車はほとんどありません。ガソリン車もこの数年間で同じ方式を採り入れています。規制によって排出量の削減が要求されており、この要求を満たすために、小型化と、小型モーターの低出力密度を埋め合わせるためにターボチャージャーの利用が進められてきました。

しかし、ターボチャージャーの搭載によって、これまでにない複雑性がシステムに加わっています。ターボチャージャーには、単独で作動するときだけでなく、エンジンと連動するときにも性能の高さが求められています。ボリュートは、エンジンシステム内部のターボチャージャーの高い性能に極めて重要な部品です。ボリュートは、ターボチャージャーをインレットマニホールドに接続する部品です。多くの場合、ボリュートはさまざまなエンジンに対応するよう再設計されます。一般的に、ボリュートには設計の自由度があり、ボリュートが引き起こす圧力損失を最小限に抑えられるようになっています。

圧力損失を最小限に抑えることができるように、ターボ機械部品(インペラとディフューザ)とボリュートとの間の相互作用を正確に予測することは非常に重要です。計算流体力学(CFD)は、この挙動をシミュレートするために一般的に用いられます。

図1: 定常解析のエントロピーコンター(左)と非定常解析(NLH)の瞬時のエントロピーコンター(右)

定常解析によって圧力損失を正確に予測できますが、インペラ/ボリュート相互作用はターボチャージャーの性能に影響を与える不安定性を引き起こす可能性があります。そのために、非定常解析が使用されますが、非定常解析は非常に計算時間がかかるため、設計段階で行われることはほとんどなく、むしろ検証段階で行われます。

大きな計算時間を必要とする非定常解析を実行することなく、設計者がこの解析方法を設計段階に組み込むには、周波数領域シミュレーションを用います。この方法の例として、NUMECAのツールに実装されているノンリニアハーモニック(NLH: Non Linear Harmonic)があります。NLHは周波数領域の流体方程式を解きます。一般的な非定常解析は全翼枚数の計算をする必要がありますが、NLHは一翼分の計算だけで、全翼分を考慮した解析が可能です。NLHは、インペラ/ボリュートの相互作用による非定常な流れ場の解析を、定常解析と同等の計算時間で予測することが可能です。

図2: インペラからボリュートへの圧力波の伝播を示す静圧変動のコンター

この動画は、圧力波がインペラからボリュートへの伝播、および逆にボリュート舌部(吐出しダクトとスクロールが接続する領域)からインペラへの反射する様子を示しています。この動画により、舌部においてインペラ/ボリュートの相互作用がどのように行われているのかを知ることができます。

この相互作用を精度よく予測することは非常に重要です。
圧力波の反射は、旋回失速、損失拡大、起振力の増大などインペラ翼に不安定現象を発生させることがあるため、全体の性能に悪影響を及ぼすことがあります。このインペラ/ボリュートの相互作用は、非定常現象のため、相互作用を平均化したミキシングプレーンやフローズンローターなどの定常解析では再現することができません。したがって、この現象を再現するためには、完全非定常解析か、NLHで計算する必要があります。前者は計算時間が膨大になる一方で、NLHは少ない計算時間で非定常現象を再現可能です。

NLHは、遠心・軸流に関わらずどのようなターボ機械の構成でも解析可能で、計算時間も抑えることができるため、設計の初期段階においても、上流側/下流側の相互作用を考慮することが可能です。

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