完全連成CFDエンジンシミュレーション

        ホワイトペーパー     29.11.2018

航空宇宙産業は、他の多くの産業と同様に、環境負荷を大幅に削減するよう国際的に求められています。ヨーロッパ連合(EU)は「Flightpath 2050」を掲げ、2050年までに乗客キロあたりのCO2排出量を75%、NOxを90%、騒音公害を65%(2000年比)削減する必要があると提言しています。[1]そして、これらの環境目標を達成する方法の1つは、ターボ機械の性能を向上させることです。我々は、設計段階での分析の改善、具体的には、より信頼性の高く学際的なソフトウェアを導入し、シミュレーションの精度と速度を向上させることで、開発コストと時間を削減し、この問題の改善に寄与できると考えています。 [2] [3]


課題

エンジン設計における主な課題は、幾何学的な複雑さ(燃焼室の部品、タービンの冷却穴など)に対応することと、現実的な計算時間でコンポーネント間の相互作用効果を十分な精度でモデル化する必要があることです。


完全なエンジンのシミュレーション手法

従来、宇宙工学におけるエンジン設計は、実験またはフローベンチのセットアップ、分析モデル、経験的/歴史的データ、1D / 2D解析などを活用しており、近年では定常・非定常解析用の3D数値流体力学(CFD)などのツールに依存しています。現在、ほとんどの研究[4-6]や産業規模で実施されているプロジェクトでは、各エンジンコンポーネントを個別に解析するアプローチが採用されています。このようなアプローチでは、通常、各コンポーネントの入口と出口での境界条件の仮定が必要であり、複数のコンポーネント(多くの場合、モデリングの精度が異なる)の結合にかなりの労力がかかるため、シミュレーションのセットアップで潜在的にエラーが発生しやすい状態に陥り、多くの場合、数値データと実験データの間に大きな不一致が生じます。

単方向連成 (one-way coupling) アプローチは、このようなシミュレーションの精度を高めるための方法の1つです。例えば、個々の収束したシミュレーションから変数の出口プロファイルを抽出し、それらを入口境界条件プロファイルとして下流側のシミュレーションに適用することができます。それでも、コンポーネント間の相互作用は一方向しか考慮されず、シミュレーションとその結果には、完全に分離して解析する場合と同様の欠点があります。一方、両方向連成 (two-way coupling)法では、すべてのコンポーネントが1つのシミュレーションで同時に計算されるので、シミュレーションが大幅に簡素化・加速されます。すべてのコンポーネントが同時に考慮されるため、航空エンジンのさまざまな要素間の境界条件を指定する必要はありません。これにより、異なるコンポーネント間のインターフェース領域の状態を推測する必要性も解消されます。

図1:完全なエンジンに対する3種類のシミュレーションアプローチ

 

完全なエンジンのCFD数値モデリング手法は、主に以下の3つに分類できます。

  1. 定常RANSシミュレーション:通常、翼列ごとに1翼分の流路のメッシュを使用し、コンポーネント間はミキシングプレーンで接続されため、低い計算コストで実行できます。
  2. 非定常RANS時間領域シミュレーション:通常、翼列ごとに複数翼分の流路のメッシュを使用するので計算コストが高く、周期的な流れの状態に達するまでに多くの時間ステップを必要とします。1回の解析で、1つのクロッキング位置の解が得られます。
  3. 非定常RANS周波数領域シミュレーション:時間領域の計算よりも2〜3桁高速で、翼列ごとに1翼分の流路のメッシュを使用し、動静翼間インターフェースのモデリングを改善します。任意のクロッキング位置における非定常解の再構築が可能です。


完全なエンジンのCFDシミュレーションに対するNUMECAのアプローチ

マイクロタービンに使用されるガスタービンエンジンの完全な3DシミュレーションがNUMECAで実施されました。KJ66エンジンの流れを、単一の完全連成3Dシミュレーションとして扱います。燃焼室内での燃料の噴射と燃焼は、簡略化された火炎片モデルでモデル化されます。NLH法(OMNIS™/Turboのモジュールとして使用可能)からの入力を使用したRANS処理を使用して、周方向の不均一性を捉え、圧縮機、燃焼器、タービン間の流れの相互作用を評価します。


プロジェクトの概要

このプロジェクトで扱うのは、KJ66マイクロガスタービンの再設計版です。図2に、計算で使用されるKJ66マイクロガスタービンの構成を示しています。インペラと羽根付きディフューザー列で構成される遠心圧縮機は、エンジンの入口に取り付けられています。燃焼室の後には、圧縮機を駆動する高圧タービン(HPT)と、独立したシャフトのプロペラを駆動する低圧タービン(LPT)が続きます。排気フードは、エンジン出口の最後のLPT列に接続されています。

 

図2:KJ66マイクロガスタービンの構成

 

シミュレーションの設定

計算領域は、各翼列で1翼分の流路とし、燃焼室の60°セクター(燃料噴射装置を1つ含むセクター)、および排気フードの180°セクターです。翼列(圧縮機の翼列とタービンの翼列)の3次元メッシュは、NUMECAのターボ機械専用のメッシュジェネレーターであるOMNIS™/Autogridを使用して自動的に作成しました。一方、燃焼室と排気フードのメッシュは、NUMECAの非構造格子ジェネレーターであるOMNIS™/Hexpressで作成しました。計算領域のメッシュは、合計1920万セルで構成されています。

 

図3:圧縮機、燃焼室、タービンの3Dメッシュと翼間のレイアウト(シュラウドは非表示)

 

まず、Spalart-Allmaras乱流モデルを使用したRANS計算を実行しました。境界条件は、エンジン入口に全圧と速度の方向を与え、出口では静圧を固定値で設定しました。燃料噴射条件は、静温と軸速度-120 m / sで与えました。なお、固体壁は滑らかで断熱的であると仮定しています。収束は、質量流量、圧力比、および、HPTローターとインペラ間の正味トルクの発展から判定します。本計算は、クラスタ上の144個のプロセッサーによる並行計算で実行されました。 2番目のステップでは、NLH法に基づいて改善された静動翼接続を用いて、計算が再開されます。


燃焼モデル

燃焼室内での燃料の噴射と燃焼は、OpenLabs™に実装された簡略化された火炎片モデルによってモデル化されます。このモデルでは、火炎温度を組成の関数とした、混合分率fについて追加の方程式が解かれます。
 

結果

定常計算

実時間で約24時間、25000回の反復計算を実施し、エンジンの入口と出口の間の質量流量の誤差は0.2%未満にまで低下しました。正味トルクMzは、インペラとHPTのカップルローターが-80000 rpmで回転すると、最終値+0.21 N.mに達します。これは、タービンが圧縮機を駆動するのに十分なトルクを生成し、両方のコンポーネントのロードバランスが非常に近いことを意味します。

図4は、圧縮機とタービンのミッドスパン、ならびに燃焼室と排気フードの固体壁における静圧、静温度、絶対マッハ数の分布を示しています。流れ場は流路全体にわたり連続的であり、インペラを介してマッハ数が徐々に上昇し、その後、ディフューザーによって運動エネルギーが圧力に変換されます。約160 kPaで空気は燃焼室に到達し、比較的圧力損失の小さい燃焼プロセスが行われます。燃焼室の最高温度は、燃焼器の内部で約2200Kです。燃焼からの排気ガスは約983KでHPTに入り、下流の翼列を介して膨張し、932Kで排気されます。

図4:圧縮機とタービンのミッドスパン、および燃焼室と排気フードの固体壁での静圧(左)、静温(中央)および絶対マッハ数(右)分布

図5の混合分率のコンター図より、燃焼室に入る燃料流の混合分率が、出口に近づくにつれて徐々に0.02に達していることがわかります。燃焼室内壁の穴の効果は、速度のコンター図で確認できます。圧縮された空気は酸化剤として作用し、気化した燃料と混合して点火します。

図5:燃焼室の子午面での絶対全温度、混合分率、絶対速度大きさのコンター図
 

NLH計算

動静翼間インターフェースでミキシングプレーン法を使用したRANS計算の結果と、NLH法を用いた結果を比較しました。特に、コンポーネント間の相互作用を改善するNLHの接続アプローチの効果が確認できます。図6と図7は、それぞれの手法による燃焼室の出口における質量流束の分布を示しています。燃料パイプの周期性と、燃焼が起きている領域のパターンを観察できます。燃焼器出口から隣接する下流のHPTノズルへの情報の転送は、ミキシングプレーン法を使用したRANSとNLH法で異なります。図より、NLH法はミキシングプレーン法と異なり、周方向の不均一性を捉えることができる、低コストの手法であることが分かります。

 

図6:定常(左)およびNLH 0ハーモニック(右)シミュレーションの燃焼室出口での質量流束

 

図7:定常(左)およびNLH 0ハーモニック(右)シミュレーションのHPT入口での質量流束

 

図8は、HPTおよびLPT入口接続部での絶対全エンタルピーと混合分率の結果を示しています。ミキシングプレーン法を用いたRANSシミュレーションでは、周方向平均化が使用されるため、周方向の不均一性が下流側で捉えられていないことが確認できます。一方、NLH法によるフーリエ分解と局所的な無反射境界処理では、そのインターフェースにおいて、やや改善が見られます。

図8:定常(上)およびNLH 0ハーモニック(下)シミュレーションのHPTおよびLPT入口接続部での絶対全エンタルピーおよび混合分率


結論

KJ66マイクロガスタービンの再設計版の形状全体を、完全連成の3Dシミュレーションとして解析することに成功しました。コンポーネントごとにシミュレーションを行う手法と比較して、完全連成アプローチは、単一のシミュレーションでエンジン全体の解析ができるという優位性があります。さらに、エンジンの入口圧力と出口圧力、回転速度、燃料質量流量のみの指定で済むため、シミュレーションのワークフローが簡素化されました。


出典: Mateus Teixeira, Luigi Romagnosi, Mohamed Mezine, Yannick Baux, Jan Anker, Kilian Claramunt, Charles Hirsch A Methodology for Fully-Coupled CFD Engine Simulations, Applied to a Micro Gas Turbine Engine. ASME. Turbo Expo: Power for Land, Sea and Air, Volume 2C: Turbomachinery ():V02CT42A047. doi:10.1115/GT2018-76870.
 
参考文献
[1] Flightpath 2050: Europe’s Vision for Aviation, 2011, http://www.acare4europe.org/sria/flightpath-2050-goals.
[2] National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine, 2016, “Commercial Aircraft Propulsion and Energy Systems Research: Reducing Global Carbon Emissions”, Washington, DC: The National Academies Press
[3] Mavriplis D., Darmofal D., Keyes D., Turner M., 2007, “Petaflops opportunities for the NASA Fundamental Aeronautics Program”, 18th AIAA Computational Fluid Dynamics Conf., Miami, FL, AIAA paper 2007–4084.
[4] Xiang J., Schluter J. U., Duan F., 2016, “Study of KJ-66 Micro Gas Turbine Compressor: Steady and Unsteady Reynolds-Averaged Navier–Stokes Approach”, Proceedings of the Institution of Mechanical Engineers Part G Journal of Aerospace Engineering.
[5] Gonzalez C.A., Wong K.C., Armfield S., 2008, “Computational study of a micro-turbine engine combustor using large eddy simulation and Reynolds averaged turbulence models”, ANZIAM J. 49 (EMAC2007) pp.C407–C422, C407.
[6] Turner M., 2000, “Full 3D Analysis of the GE90 Turbofan Primary Flowpath”, NASA/CR—2000-209951.
この記事を共有: