Pipistrel社、プロペラを最適化し、電気航空機のエネルギー消費を6%削減

著者: D. Eržen, M. Andrejašič, R. Lapuh, J. Tomažič and Č. Gorup - Pipistrel Vertical Solutions d.o.o., Slovenia T. Kosel – Faculty of Mechanical Engineering, Slovenia
目的
エネルギー回生により、電気航空機のエネルギー消費の削減を目指す
ソリューション
プロペラを航空機の風力タービンとして使用しました。航空機の降下によって生成されたエネルギーを電気エネルギーに変換し、それをバッテリーに保存します。尚、プロペラの性能は、OMNIS™/Turboを使用した数値計算によって検討しました。
結果
航空機の上昇時におけるエネルギー消費を6%削減
上昇/降下時の正味エネルギー消費を19%削減
満充電のバッテリーで航行可能なトラフィックパターンの数が27%増加
初めて開発された電気航空機は、通常の燃焼エンジン航空機のピストンエンジンシステムを電気推進ユニットに置き換えたものでした。環境負荷が少ない設計ですが、これはまだ電気航空機にとっては最適な設計ではありません。
最先端のバッテリーでも、そのエネルギー密度はガソリンよりもはるかに低いため、電気航空機で運用するためには改善の余地がありました。
プロペラ設計戦略:エネルギー回生
電気航空機のエネルギー消費を改善する方法の1つは、プロペラを空中風力タービンとして使用することです。この方法では、降下する航空機のエネルギーが電気エネルギーに回生され、バッテリーに保存されます。
Pipistrel 社は、飛行中の電力回生を活用するため、その用途に適合したプロペラを設計しました。
最終的な目的は、同社の電動トレーナー機であるAlpha Electroのエネルギー消費を改善することです。
上昇は、飛行パターンの中で最もエネルギーを消費する運動です。新しいプロペラEA-002(図1)は、上昇段階で良好な性能を維持しながら、エネルギー回収の可能性を活用するように設計されました。
推進システムの最適化
推進システムの最適化のために、3つのアプローチで再設計を行いました。
- 空力的アプローチ:翼型の形状および、ブレードの翼弦/ねじれ分布の最適化に焦点を当てました。プロペラの性能は、NUMECAソフトウェアOMNIS™/AutoGridおよびFINE™/ TurboによるCFD解析により検証しました(図2に断面の速度分布を示す)。
図2:形状とCFD解析による速度分布
- 電気的アプローチ:電力変換を制御できるハードウェアを導入し、特定の降下率で最大のエネルギーを回収するためにトルク/角速度の組み合わせを調整しました。
- 戦略的アプローチ:上昇率と降下率を調整して、それぞれのエネルギー消費を最小化し、エネルギー回収を最大化することに焦点を合わせました。
実験方法
推進ユニットの性能は、実験における以下の2つのパラメータを3つのプロペラ間で比較することで評価しました。
(1)1000フィートの上昇および降下運動での正味エネルギー消費量
(2)1つの完全に充電されたバッテリーで航行されたトラフィックパターンの数
3つのプロペラ(図3):
- AS-Dプロペラは、主にAlpha Electroのピストンエンジンバージョン、つまりAlpha Trainer用に設計されたプロペラです。
- EA-001プロペラは、Alpha Electroパワートレイン用に開発され、登山およびクルーズフェーズに最適化されています。
- EA-002プロペラは、Alpha Electroパワートレイン用に開発されましたが、上昇とエネルギー回生のためにも最適化されています。
図3:左から、AS-D, EA-001およびEA-002
実験における上昇および降下運動は、以下の条件で行われるものとします。
-
上昇:45 kWの電力で、1000フィートを速度76 kts( IAS)で絶えず上昇 - エネルギー消費、垂直速度、上昇時間を観測
-
降下(回生):スロットルはアイドリング状態で、速さは固定せずに1000フィートを安定的に降下 – 回生エネルギーと降下率を観測
完全に充電されたバッテリーを1つ使用したトラフィックパターンの飛行テストには、次のようにAlpha Electro Pilot Operating Handbook(POH)で規定されている操作条件が適用されます。
- 上昇/離陸、クロスウインドおよびダウンウインドの航行
- 対気速度(IAS)が60 kts未満の時は離陸フラップを使用
- 地表を基準として0から500フィートまで上昇
- 上昇時の最初の10秒間ではフルパワー(65 kW)を適用
- それ以外の時は70%(45 kW)の電力を適用し、速度76 kts( IAS)で上昇
- 高度500フィートでは30%(20 kW)の電力を適用し、高度500フィートを維持
- ベース、ファイナル、タッチアンドゴー
- 出力をアイドリング状態までに徐々に下げながら、500フィートから0フィートまで降下
- 対気速度(IAS)が 60 kts未満の時は着陸フラップを使用
- 対気速度(ISA)50 ktsで地表まで降下
性能比較
実験の結果を表1に示します
表1より、AS-DとEA-001は、ほぼ同等の上昇性能と回生機能を備えていることがわかります。一方、 EA-002を搭載すると、航空機の上昇時のエネルギー消費量はAS-Dプロペラに比べて6%減少し、降下時には速度70ktsで0.15kWhのエネルギーが回収できることが実証されました。実験より、回生のために最適化されたプロペラ(EA-002)は、EA-001と比較して正味エネルギー消費量を19%削減できることが明らかになりました。
表2より、AS-DとEA-001プロペラでは、ほぼ同じ数のトラフィックパターンを航行できることがわかります。一方、EA-002プロペラでは、AS-Dと比較して27%以上多くのトラフィックパターンの航行が可能であることが実証されました。この結果より、EA-002プロペラも含め、全3種のプロペラは比較的低い進入速度(50 kts)で効率が向上し、エネルギー回収率が向上することが明らかになりました。
実験とCFD解析の比較
CFD解析の結果とEA-002プロペラの飛行試験測定値の比較をします。推力係数とプロペラの出力係数の2つのパラメータの比較を行いました。
図4と図5は、それぞれEA-002プロペラの推力係数および出力係数を、進行率との関係で示しています。これらの図より、NUMECAソフトフェアによるCFD解析の結果とプロペラの飛行試験測定値は、よく一致していることがわかります。
図4. EA-002プロペラの推力係数と進行率の関係:CFDによる設計予測と飛行試験測定値
図5. EA-002プロペラの出力係数と進行率の関係:CFDによる設計予測と飛行試験測定値
結論
エネルギー消費量の削減により、航空機はより長時間航行することができ、より小さなバッテリーによる稼働にも期待が持てることが明らかとなりました。
EA-002は、電力駆動の回生機能を備えた、初めての欧州航空安全機関認定プロペラになる予定です。
出典:
D. Erzen, M. Andrejasic, R. Lapuh, J. Tomazic, C. Gorup, and T. Kosel, "An Optimal Propeller Design for In-Flight Power Recuperation on an Electric Aircraft", 2018 Aviation Technology, Integration, and Operations Conference, AIAA AVIATION Forum, (AIAA 2018-3206)