ワールド・ソーラー・チャレンジ - ソーラーカーの回転ホイールの空力解析

        顧客事例     05.11.2019

著者:Thomas Holemans, student, campus Groep T Leuven, KU Leuven, Kristof Borgions, student, campus Groep T Leuven, KU Leuven, Maarten Vanierschot, Assistant professor, campus Groep T Leuven, KU Leuven and Colinda Goormans-Francke, Head Academic Products and Applications, NUMECA International.


 

オーストラリアの奥地で開催されるソーラーカーのレースであるワールド・ソーラー・チャレンジ (World Solar Challenge)は、2年ごとに開催されます。このレースに参戦するソーラーカーは、世界で最も優秀な若いエンジニア達によって製作されています。世界中の学生チームが、太陽光のみを動力とする車両を自力で設計し製作することが、テクノロジーの革新を進展させます。このレースの狙いは、こうしてソーラーカーの研究を促進することです。

ベルギーのチームAgoriaは、昨年のレースでBluePointと呼ばれる車で優勝しました。 BluePointは、ルーヴェン・カトリック大学の学生チームによる長年の研究の成果です。

ソーラーカー開発において最も重要な要素の一つは、抗力を減らし消費電力を最小限に抑えることです。限られた時間で最適な設計を見つけるために、AgoriaはOMNIS™を使用したシミュレーションを何ケースも実施しました。高速で操作が簡単でありながら、高品質なメッシュ生成機能は、さまざまな設計変更を行うことを可能にしました。

 

ホイールの回転が抗力に及ぼす影響の研究

従来の車両の空力解析は、ホイールは考慮しない、もしくは静止部品と定義して行われてきました。しかし、ルーヴェン・カトリック大学のKristof BorgionsとThomas Holemans [1]の論文では、ホイールの回転を考慮しています。これらの論文おけるホイールの回転の影響は、OMNIS™/Open-DBS with OpenLabs™を使用して検討されました。

この論文では、ソーラーカーの解析を回転ホイールと静止ホイールの両方で実施し、回転が自動車の総抗力に与える影響を評価しました。さらに、シミュレーション結果と実走行環境、および車輪が静止している風洞試験との比較を行い、新たな知見を得ることに成功しました。

同大学のVandervelpenとUten[2]によって行われた、ホイールのないソーラーカーの解析を先行研究として参照しました。限られた研究期間で修士論文を仕上げるために合理的な計算時間を設定しなければならなかったため、タイヤの溝は考慮せず、ホイールアーチも簡素化しました。また、計算は車内の流れの影響を受けないものとしたため、サスペンションの隙間は閉じられました。さらに、シミュレーションでは車体の半分のみを考慮し、張り出し屋根部分の周りの流れは無視しました。

 

図1:簡略化されたタイヤ、リム、ホイールアーチ

 

図2:車のホイールの位置

 

メッシュ生成および計算設定

Parasolid形式のCADファイルをインポートし、約1,150万セルの完全六面体のメッシュを作成しました。

OMNIS™/Hexpressを使用して、形状の様々なサーフェスを自動的にグループ化しました。これにより、シミュレーションの以降の手順が大幅に簡素化されます。例えば、すべての狭いフィレットサーフェスを一つのサーフェスにグループ化することで、正確に曲面を捉えるためのセル精細化を局所的に実行できます。車の前縁と後縁部分にもセル精細化を施すことが可能です。局所的な精細化を施すことで、メッシュ数を最小限に抑え、且つ形状を正確に捕捉します。

 

図3:y軸直交の切断面で可視化した車体前縁の完全六面体メッシュ

 

本解析ではホイールに焦点を置いているため、この領域のメッシュ生成に特別な注意を払います。したがって、可変領域であるホイールとアーチ間を正確に捕捉する必要がありました。この領域のセル精細化には、近接リファインメントを適用しました。セルサイズは二つのサーフェス間の距離でコントロールされるため、セル数を制限することができます。

この論文のシミュレーションでは、OMNIS™/Openを使用したRANSによる3D非定常解析を行いました。先行研究[2]に基づき、乱流モデルとしては最良の結果が期待できるk-ω SSTを採用しました。

回転ホイールを使用したシミュレーションでは、ホイール部に移動壁面境界条件を適用し、車の速度に対応する半径方向の速度を設定しました。本解析では、タイヤの溝とリムスポークを考慮していないため、この境界条件を適用できます。また、実際の風洞試験の静止ホイールは静止した地面に接地していますが、この研究では、同じ条件で行われた計算結果を比較できるように、静止ホイールの計算にも移動床の条件を与えました。

 

結果

シミュレーションは、ルーヴェン・カトリック大学の”Applied Fluid Mechanics and(Aero)Acoustics”研究グループの160GBのRAMを搭載した26コアのワークステーションで実行されました。最初に行われた定常計算は、52時間(4.5 CPU.h /百万ノード)で終了しました。しかし、非定常計算の場合は、静止ホイールを使用したシミュレーションが安定するのに440時間かかったのに対し、回転ホイールを使用したシミュレーションはわずか44時間で終了しました。この違いは、静止ホイールの場合に発生する渦放出に起因していると考えられます。ホイールの回転により、渦放出の振幅と周波数が大幅に減少します。

 

図4:静止(左)および回転(右)ホイールの速度の底面図

 

図5:車の下流の垂直切断面 (x = -1.8) 上のQ-Invariantおよびサーフェス上の流線 (赤)。静止ホイール(左)は、回転ホイール(右)と異なり渦放出が発生

 

表面摩擦抵抗値は、ホイールの回転によってわずかな影響しか受けませんが、一方で圧力抵抗値は回転によって大きく変化しました。また、シミュレーションでは前輪が後輪よりも高い圧力抵抗を持つことが明らかになりました。これは、前輪部の伴流によって、後輪部の全圧が低くなるためです。さらに、流れは前輪によって引き起こされる渦放出によって形成された角度で、後輪方向へ流れます。また、圧力場の可視化により、前輪の下流の後流の圧力(左)が、後輪(右)の後流の圧力より低いことがわかりました。

 

図6:静圧分布図(底面の水平な切断面)

 

ホイールの回転により、ホイール上の抗力が約40%減少します。これは、CdAを約10%削減させるので、かなり大きな効果と言えます。

シミュレーションによって、回転によって引き起こされるホイール周辺の流れ場の構造に関する詳細な知見が得られました。ホイールとホイールアーチの前面に小さな再循環ゾーンがあり、この領域では上流からの自由流れと、ホイールとホイールアーチの間の流れが合流します。

 

図7:フロントタイヤの周りの速度で色分けされた流線

 

計算されたCdAは、風洞試験で得られた結果と比較して0.95%以内の差でした。今回のシミュレーションには張り出し屋根部分が含まれていなかったため、この計算結果は、張り出し屋根部分を含む、以前の結果に基づいて修正されています[2]。

 

結論

OMNIS™/ HEXPRESSおよびOMNIS™/ Open-DBS with OpenLabs™を使用して設計したソーラーカーは、限られた時間内で学生が行った研究の成果です。この研究は、回転するホイール周りの流れの構造と、回転による圧力抵抗に対する影響についての新たな知見となりました。車輪を回転させると、車輪の抗力が最大40%減少し、完成車のCdAが10%減少します。このケースは、特にシミュレーション結果と、実走行環境および風洞試験結果の比較における信頼性を高めるのに役立つでしょう。

 


参考文献

  1. Borgions K., Holemans T., Aerodynamic simulation of rotating wheels in a solar car. KU Leuven, Faculty of Engineering Technology. Master thesis, 2019.
  2. Vandervelpen E., Uten J., Testing of turbulence models for the aerodynamic simulations of a solar car, KU Leuven, Faculty of Engineering Technology. Master thesis, 2018.

 

 

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